『ココロ』
〜White Requiem〜

それは、アプス島に来た日の夜。

空は漆黒に染まり、月と星が輝きあたりを照らす。
トロイメライの熱烈な歓迎を受け、そろそろ寝ようか、という時間だった。


『カイザーが帰ってこない!?』


「…はい…」

散歩に行ってくると行ったまま、カイザーは戻ってこなかった。
ただ、散歩に行くだけなのに、いくら何でも時間がかかりすぎだ。

「とりあえず探してみるとしよう。
カイザーのことだから勝手にどこかに行くことはないと思うがのぉ…」
「そうよね…じゃあ、アタシは向こうを探してみるわね。2人はそっちをお願い。
…シドゥリはここで待機ね。カイザーが戻ってくるかもしれないから」
「分かりました…」

みなさんには言わなかったけど、こういう風にいなくなることは前にもあった。
朝出かけたきり数日帰ってこなかったり、朝からいなかったり。
カイザーはもともと野生だから、私が引き止める理由はないし、最後はいつも私の所に帰ってきてくれる。

私が突然動物さんとお話できるようになった時、大好きな動物さんを食べるなんてできなかった。
とうとう水しか飲めなくなって衰弱していった時、カイザーは言った。


―全ての生き物は、他の生き物の犠牲の上に生きている。みんな、犠牲の上に“生かされている”―ということ
―死んではいけない。死んだら、今まで私の糧になったモノたちに対して失礼である―と…


その言葉がなかったら、私は生きていなかったかもしれない。
その言葉があったからこそ、生きないとダメだって思うようになった。
小さい頃から一緒にいてくれて、笑ってくれて、時には叱ってくれた。

ある日カイザーがいなくなって不安だった時、帰ってきたカイザーはこう言った。

「皆がいるから、私がいるから寂しくないでしょ?」

それは本当で、広場に行けば動物さんがいたから笑顔で過ごせた。
でも、家に帰れば一人だった。
とても、とても寂しくて。多分、あの笑顔でいた時も寂しかったんだと思う。
早くに両親を失くした私にとって、カイザーは親友であり、何より『お母さん』だったから。
『お母さん』がいなくなったら、誰だって寂しいよ。


だけど…


しばらくして、皆が苦い顔をして帰ってきた。

「だめじゃ、どこにもおらん」
「こっちにもいなかったぜ」
「向こうも探してみたけど、見つけられなかったわ」

だけど…カイザーが決めた事だから。

「カイザーのやつ、どこに行っちまったんだよ」
「もう少し遠くまで探しに行ったほうがいいかもね」

世界樹さんを助けなきゃいけないのに、それでもどこかに行く理由が、カイザーにはあったんだよね。

「…って、シドゥリ聞いてる?」
「あ、はい!!聞いてますよ!!」
「・・・・。カイザーがいなくなって、やはり不安かね?」

カイザーがいなくて不安だけど、私にはコッペリアさんも、スルトさんも、ルーン君もいるから…

「カイザー、探さなくてもいいです」


今までの事、私が生きている事をみなさんに話しました。


「そういうことは早く言いなさい」
「ご…ごめんなさい」

みなさんは納得してくれたようでしたけど、どこか心配そうな面持ちでした。

私も心配だけど…信じているからね。
絶対に世界樹さんを、一緒に助けようね。



―待ってるよ、カイザー―


Write by aoi
Illustration by gin

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