魔獣はたてに大きく口を開け、光の玉を作り出し俺たちめがけて放ってきた!
それは速いスピードでやってきたが、そいつとの距離があったので、思い思いのほうに飛びそれをかわす。
着地と同時に呪文を唱え、解き放つ。
俺とテリアが放った紅い炎はまっすぐ飛んでいく。
そんなことはおかまいなしに魔獣は突っ込んでくる。
炎に直撃し、濃い霧を漂わせる。
やった・・・!
と思った直後、魔獣がその中から飛び出してくる!
『何っ!?』
まさか・・・魔法が効かない!?
スピードを落とさないまま突っ込んでくるヤツを、地を蹴り左右によけやり過ごす。
「あいつ、魔法が効いていない!?」
初めての相手に、テリアの声にはおびえが混じっていた。
「分からない・・・ここじゃ場所的に不利だ!ひとまず逃げるぞ!」
たまに後ろを振りぬきながら、薄暗い通路を駆け抜ける。
魔獣はすぐに機転がきかないらしく、すぐには追いかけてこない。
しかし、一息ついたかのような間の後、再びおたけびを上げながら追いかけてくる。
魔獣の方が足が速いから、早く広い場所に出ないと・・・
と、運良く広いホールに辿り着いた。ここなら戦うのに十分なスペースがある。
魔獣と向き合うために、バッと振り返る。
すると、すでに目の前に魔獣が迫り、大きく息を吸って力を蓄えていた。
まずいっ!
振り返ってすぐだったから、まだ体勢が立て直せない!
魔獣は光の玉を発射した!
とっさに手でガードするが、すんでのところで鈍い音を立て消える。
どうやら、テリアが防御呪文をかけてくれたらしい。
「悪い!」
「それより気をつけて!こいつ攻撃パターンは単純だけど、それだけじゃないはずよ!」
「分かってる!」
しかし・・・俺が魔獣の気配に気づかないなんて・・・
体勢を立て直し、離れ際に氷魔法をかける。
キンッ―!!
と、硬い音をたて魔獣の動きを止め氷づけにする。
そのまま動かなくなったが、こいつは魔法が効かないかもしれないから油断は出来ない。
テリアも同じことを考えていたのか、その顔からはまだ緊張の色が抜けていない。
ピシッ―・・・ピシッ―・・・
何かが割れるような小さな音が響く。
魔獣をよく見れば、動きを封じている氷が内側からヒビ割れ始めている。
「くそっ!やっぱりダメか!?」
「シャイン!もっと間合いとって!」
俺が後ろに下がりテリアの近くに行ったのと、
ビキッ!!
氷に大きく亀裂が入ったのが同時った。
一瞬の隙を狙うしかない。
魔獣が氷から出てきた瞬間に大技をやる!
テリアに目で合図し、呪文を唱える。
パキ―・・・ン!!
氷が砕け、大きく散っていく。
今だ!
ぐおぉー!!
しかし俺が魔法を放つ前に床が白く輝く!
テリアととっさに飛び退いたが、体に電気が流れたかのようにしびれ、魔獣が放った衝撃波をもろに受け飛ばされる。
「くっ―・・・!」
集中力が途切れ魔法は発動せずに消える。
そしてその勢いのまま、二人とも壁にたたきつけられる!
『・・・―っ!!』
声にならない悲鳴を上げて下に落ちる。
くはっ・・・
一瞬息が出来なくなりめまいを起こす。
「はぁ・・・はぁ・・・あいつ、広範囲の全体技まで仕掛けてくるみたいだな・・・」
「けほっ・・・しかも・・・技の発動時間が短いから・・・防御魔法する間がないんだよね・・・」
技が広範囲でも、発動までの時間が長ければどうにでもできる。
防御魔法は発動までの時間が長いから、どっちにしろ不利だ。
「・・・何とかしてここから逃げられないかな・・・さっきいた所まで行ければ・・・」
「いや・・・さっきの所には魔方陣はなかった。多分一方通行なんだろ・・・」
「じゃあ、何とかして倒すしかないのかな・・・でも、魔法ほとんど効いてないみたいだし」
「あぁ、せめて剣とかあればよかったけど・・・ないものを悔いてる暇はないみたいだな」
魔獣はじわりじわりと寄ってきている。
俺たちの後ろは壁。
正面から襲われたら逃げ場がない。
左右によけた瞬間、返し刀の要領でやられてしまう。
ダメージは大きかったが、まだやれる!
魔獣と目を合わせたまま、ホールの隅とは反対側へと移動する。
「もしかしたら効く魔法があるかもしれない。片っ端からやるぞ」
「分かった」
ここでもやはり魔獣とは目を話さず、左右に別れ位置をとる。
しかし、なぜあの魔獣は攻撃してこない・・・チャンスはいくらでもあったのに・・・
さっきより落ち着いて見える。
魔獣が俺のほうに向き合った瞬間、テリアの魔法が完成した。
いくつもの電気が魔獣の上で集まり、大きな雷となって突き刺さる!
苦しいのか口を大きく開け、天を仰ぐ。
魔獣の毛が逆立ち、白く光る。
それだけだった。
標的をテリアに合わせるように体を向け走り出す。
マヒすらしてないのか!?
しかし、テリアは打ち合わせ通り後ろに下がり、そのまま防御呪文を作った。
もう一度大技を仕掛けてやる!
少しはテリアに当たるかもしれないが、防御呪文がかかっているので多少は大丈夫だろう。
テリアも納得している。
床に両手をつき、力を解放する!
魔獣の周りに魔方陣が描かれ、動きを封じる。
とどめ!
「シャイン後ろ!!」
何っ!?
ドカッ!!!
「ぐっ・・・ぁ―!」
背中から攻撃され横倒しにされる。
何が起きた!?魔獣は今あっちに・・・
と、攻撃されたほうを見れば、同じような魔獣が立ちはだかっていた。
くそっ!あいつ仲間を呼んだのか!
立ち上がろうとしたが、再び攻撃を受け、今度は飛ばされる。
「シャイン!・・・きゃあ!!」
テリアが悲鳴を上げ、俺のほうに飛ばされてきた!
なんとか体を起こしテリアを受け止めようとしたが、体に激痛が走り、テリアは床にたたきつけられる。
まさか・・・!
テリアが今いたところにも、また魔獣がたたずんでいた。
3匹目だと・・・っ!
テリアは横になったまま動かない。
防御魔法をかけていてもこのダメージ・・・どうしたら・・・
テリアを抱えて飛行の術で逃げるか・・・?
しかし今のダメージじゃ、コントロールが難しいあの術は出来ないかもしれない。
1匹で苦戦してたから、3匹じゃとてもじゃないが勝てる気がしない。
3匹の魔獣が同時に口をあけ魔力を貯める。
次で・・・やられる・・・
ふと、視線をテリアに移す。
いつもうるさくて、気取ってて、ムカついたけど、何かと手助けしてくれたテリア。
また・・・守れなかった・・・
ごめん・・・
そして、次の攻撃が来た。
3つの光の玉は1つになり迫ってくる!
少しでもテリアをかばおうと前に出る。
そして、目を、つぶった。
やられた・・・と思ったが、攻撃は大分外れたようだ。
目を開けてみると、魔獣の動きがおかしい。
攻撃もめちゃくちゃだ。
ざっ、と誰かが俺たちと魔獣の間に現れた。
この人は・・・
「大丈夫か!?動けるならこの場から離れろ!」
しかし俺の意識は、遠く落ちていった。