想イデ-8-I wanna send a message 〜伝えたかったこと〜

ドクン・・・

と、またさらに闇が広がるのが分かった。


制御が難しくなり、そのまま下に降りる。
町からは大分離れ、まだ片付けられていない建物の残骸が見られる。
このままここにいて闇が暴走したら、あの魔族の思惑通りになってしまう。
その前に、ここから離れなければならない。

でもどこへ?

どこに行っても制御できなければ意味がない。
ならば残された道はただ一つ。


すなわち、
『死』をもって闇を封じること。


破壊の道に進むことなんて出来ない。
俺はここを、守りたい。
だから、何としてでも『死』を選ぶ。

そんな俺の覚悟を感じ取ったのか、闇は急に勢いずく。

「・・・っ!」

だめだ・・・っ!だめだ!!

額からは汗がにじみ出て頬を伝う。
息は荒く、もはや限界の位置に達しようとしていた。
そこへ現れた一つの気配。
うつろな目を移したその先にいたのは、

「エリエ・・・」

俺を追って、ここまで来たのか・・・?

「シャイン!」

エリエは俺を見るや否や、側に来ようとかけてくる。

近づくな!

しかし、それは声に出来なかった。
その時、闇の『声』が聞こえた。


『まずは余興を楽しもう』


やばい・・・闇はやる気だ・・・!

なおもかけてくるエリエ。
この声だけは届いてほしい。

「近づくな!逃げろ・・・!!」

それが、俺に出来る、唯一のことだった。


「・・・えっ?」


普段は見せることがない俺の表情に、思わずその場で止まるエリエ。



俺は・・・

闇の中に、入っていってしまった。

それは、自分が誰かの中に入っている、そんな感覚だった。
体は言うことを聞かないが、見るもの触るもの、全て感じる。
そして、闇も。

“俺”はただ走る。

目標に―エリエに向かって。
手に、闇を持って。

お願いだ!逃げてくれ!
闇も止まってくれ!!

闇に強く働きかけても、もう無駄だった。


二人の距離は縮まる。


だめだ!

やめろ・・・
やめろ!!

エリエは逃げず、優しく笑い、両手を広げる。
母が子を抱きしめるように、優しく。

“俺”は右手を振り上げる。


やめろ―――!!


目の前が、紅く、咲いた。
時が夕刻に戻ったかのように、紅く、紅く―・・・






体から闇が引いていく。
何故か、闇の力が抑えられたようだ。
フッ―と、自分の意識がはっきりする。

俺は錯覚していた。
今起きたことは全て空想で、嘘で、夢なんじゃないかって。

「エリ・・・エ・・・?」

体が小さく震えているのが分かった。

「エリエ!」

でも、目の前にある“紅”は現実だった。
横たわっている彼女も、現実だった。

小さな体を抱きしめ、呼びかける。

「エリエ!・・・エリエ!!」

と、エリエの目がゆっくりと開く。

「・・・シャイ・・・ン・・・?」
「何で逃げなかった?・・・逃げろ・・・って・・・」

エリエの顔を見ていられず、目を伏せる。

「・・・泣いていたから。悲しい顔で・・・ずっと・・・今も・・・泣いていた・・・から・・・」

そう言って俺の頬に手をそえる。

「そんなこと・・・!俺は・・・お前を・・・!!」

エリエを見た。
二人の目がやっと合う。

「助けたかった・・・助けられた・・・かな?」

エリエの目から涙が一筋流れる。

「・・・あぁ、・・・ありがとう・・・」

俺の目からも涙が一筋流れる。

「よか・・・った・・・シャインは・・・絶対・・・生き・・・て・・・」

エリエの目がゆっくりと閉じる。

「・・・エリエ?」

その目が再び開くことは、

「おい!目を開けてくれよ!」


なかった。

その時、抱えているモノが、少しずつ体温を失っていくのが分かった。
これが生命の死だた、気づきたくなかった。




ずっと呼び続けてた      声が枯れるほど呼び続けた

私の名前を              キミの名前を

もう私はいない        もうキミはいない

何も出来ない         話すことも出来ない

ずっとアナタの側にいたかった     ずっとキミの側にいたかった

ずっと笑顔の私でいたかった      ずっと笑顔のキミが見たかった

アナタとの距離は遠いけど        キミとの距離は遠いはずなのに


ずっと言いたかったこの想いが届きますように      暖かい風が伝えた






―――大好き―――







涙は、止まらなかった。




end・・・・・・・


あとがき
とても悲しい結末になってしまいました。
最愛の人を、自分のせいで、自分の手で殺してしまった。
でも彼女は最期まで、彼を想い、生きてほしいと願った。
その想いが伝われば、彼はきっと生きるための道を探し出すでしょうね。
ラストに詩の「遠い願い」改を入れて、雰囲気を出してみました。
場面が頭の中に思い描けたでしょうか?

ここから新たな物語が始まっていきます。
こんな小説でしたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。
続きは体験版兼序章でm(_ _)m
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